時間と感情を注ぎ込み奥深い真実を見せるカナディアン・ミュージシャン

掲載:PROG MAG

時間と感情を注ぎ込み奥深い真実を見せるカナディアン・ミュージシャン

Alex Henry Fosterは、エピックでないこと以外はしないという観察に、はつらつとした笑いを放つ。そして彼がライブ演奏を一緒にする6人組The Long Shadows(時に2人のドラマーを含むバンド)の演奏は時に1曲25分も続く。取り繕った謙遜をするときではないことを、彼は知っているのだ。

「スタジオとライブバージョンではかなり違うね」と彼は説明する。「一番大きなチャレンジは、ステージ上でたくさんの楽器機材を操る7人のミュージシャンをナビゲートする以外には、その瞬間に集中して、エッジに乗り続けるということ。ツアーでは、プロのミュージシャンでいることについて過去に学んだことを、全部忘れる必要があったんだ。そうやって毎晩が新しい機会であると知る必要があった」。

初期のLed Zeppelin, Black Sabbath や King Crimson を聴いて育ったモントリオール出身のAlex Henry Fosterのテイストは、のちに、よりアヴァンギャルドなノイズロックの影響を受けたSwans, Glenn Branca や Sonic Youth へと傾倒していく。既にオルタナティブ・ロッカーYour Favorite Enemiesとして活動してきた経歴もあり、音楽としてはベテランだが、癌で父親を亡くしたあと、Fosterは自分の人生を見つめ直す機会を持たなければならなかった。

場所をモロッコはタンジェに移し、Fosterは地元の環境に浸り、のちに自身のソロアルバムとなる『Windows in the Sky』の楽曲を書きながら、自身の嘆きに満ちた心と向き合った。その結果、Mogwai と Steven Wilsonなどのテイストを含んだ、ポストロックとプログレッシブな探究をブレンドした虚でありつつも、感情的なアルバムへと仕上がる。

「これはソロプロジェクトなんだ」とFosterは説明する。「でも、バンドとしてやりたかったから、混ざっては去っていく人たちの中で、こういうサウンドが好きな友人たちを招待したのさ」。

楽曲がとても個人的な経験を元にして作られているため、Fosterはこのプロジェクトでツアーに出ることを躊躇っていた。「僕の一番の不安は、何度も何度も、この曲たちを演奏して味わう中で、アルバムがロックンロールのサーカス(見せ物)のようになってしまうだろうか?ということだった」。

彼の勇敢な解決策は、ライブではスタジオでレコーディングされたものの束縛を外し、感情の赴くままに演奏するというものだった。

「楽曲は、その瞬間に基づいた、オープンな解釈である必要がある」とFosterは言う。

「だからこそ、僕の役目はまるでマエストロのようなもので、バンドは僕のシグナルを見なきゃいけない。とてもオーガニックで、オーディエンスの反応によるんだ。それに、僕らが使える楽器の量で、テクニカルなチャレンジもある。ステージ上では色々なことが起きているから、即興をするときは、かなり集中力が必要になるよ」

彼は加えて:「僕らは素晴らしいコンサートをすることができる。でも、感情が動かされず、音楽的にも自己中心的なものになってしまったら、それは意味のないものなんだ。僕にはそのレベルの危機感が必要なんだよ。いつも崩壊ギリギリにいることによって、本物だと分かるように」。

Alex Henry Fosterは一瞬、間をおき、静かに笑いながら、こう付け加えた:「それが僕ら自身であり、僕らがやっていることさ」
 

J.N
2020年5月7日

Facebook
Twitter
WhatsApp