自己追放

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ウェブロックマガジンBEEASTでのコラム連載より

“幸せになりたいのなら、なりなさい” – トルストイ

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僕は今モロッコにいる。こちらに来て、まだ2日目。これから8週間を素晴らしくインスピレーションに溢れた街、タンジェで過ごすんだ。もう既に家のように感じている美しいゲストハウスDar Nourの屋上にあるテラスで、赤ワインを嗜んでいるよ。タンジェのカスバ(旧市街)の中心、北アフリカの暖かい太陽がゆっくり夜へと消えていく前、最後に見せる明るい鮮やかな光を眺めてる。風は優しく僕の顔を撫でる。海からのフレッシュなそよ風だ。海は空の青さを反射している。世界の鏡さ。その絶え間ないダンスは、僕がいる場所からほんの数歩。その完璧な景色からは、魅力的なスペインが見えるんだ。海の音を通して、何度も何度も僕を招いている…否定するには美しすぎるし、拒絶するには繊細すぎる、自制するには魅力的すぎるよ。

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スペインには、もう多すぎるほど何度も恋に落ちてるんだ。その魅力を肌で、心で、魂で感じるのを拒絶なんてできないくらいにね。僕の頭の中だけの物語かもしれないけど、それでもスペインは僕の心をしっかりと握っている。たとえ時間がそれを奪おうとしていても。ときに思い出は守り抜く価値のあるものだ。鮮やかに保ち続ける価値のあるものだよ。たとえ、もう1日だけだったとしても。たとえ、笑いながら追いかける子供たちに捕まった雪が溶ける前、その一瞬を盗み見るくらいだったとしても。成長するにつれて思い出せなくなる青春の宝物は、毎日少しずつ僕を不安にさせる。大人になるにつれて、少しずつ忘れがちになって、以前は嫌っていた香りのノスタルジアを育てるんだ。メランコリアに治療法はない。それは生きていて、本当に生きていて、自分たちが達成しきれなかったもの、失くしたとか、盗まれたって報告したい思い出の宿命論から生まれた皮肉的な精神を癒す。まるで、今や、より大きな嘘でカバーする必要のある、ほんの小さな真実のために全てを引き換えにしたこと、その事実に耐えやすくするかのように。若さは、心の状態であり、それが生き方を決める…そう思ってる。

活気溢れるタンジェは、今とても静かだ。子どもが遊んでいる笑い声がなかったら、余計にね。僕はその秘密に魅了されてる…ここでは、沈黙はまるで若い女性の赤い唇を覆うショールのようだ。彼女たちは熱く輝く目を見たいと望む者たちにミステリーを与える。謎めいた最高傑作だ。実際、信じがたいけれど、数え切れないほどの建物が集まった幾千もの小さな通りには、そこから聞こえてくる音以上に、たくさんの物語が存在し、僕らの用心深い目の前を静かに通り過ぎていく時間を懐かしみ、力なく、もしくは消極的にひれ伏しながらも、最も大切な瞬間が日々消えていくのを目にしている。

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タンジェへは一人で来た。僕をよく知る人たちにとって、それは驚きであり、困惑でもあった。僕の生き方や、自らが誕生させた現実とは正反対のことだったからね。この世の恐怖が、体験できなかった幸せを響かせる、説得力のない音の影に終わることであるとき、もう既に素晴らしい人々に囲まれてるのに、誰が一人でそこを離れる?僕は自分と向き合う時間が必要だったのかも…もしくは、こういうのが自分なんだって、いとも簡単に決めていたことを再定義するための、自己追放だろうか?人は嘆きの疎外感に簡単に負ける。感情的に承諾した犠牲は、簡単に妥協したことによって、ずっと続く悲しみとなる。自分を再び立て直そうと、生涯その道を探す人たちもいる。かつて信じたものの欠片を保ち続ける理由を見つけるために死ぬ人だっている。僕といえば、太陽の光を浴びながら、ここに来る必要があったということ以外、何も分からないでいる。もしも、僕らが作ったこの世界の後継者が僕ら自身なのだとしたら、何者でもない僕として受け入れてくれたタンジェの暖かくて塩っけのある空気を吸いたいと思ったんだ…友人かのように僕に笑いかけ、息子かのように抱きしめてくれる人々…アレックスというよりもヘンリー、フォスターと呼ぶ人はほとんどいない…それは、とても良い気分なんだ。とてもね。

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朝は、モスクのスピーカーから流れる祈りの音で目覚める。どれだけ違う文化を持っているかを思い出すよ。一人で夜明けを見ることも、あまりないしね。朝起きたとき自分がどう感じるかとか、誰と一緒に目覚めたいかについてじゃなくて…僕にとっては理由が大事なんだ。目覚めの光が地平線を照らすのを見るために、僕は起き続けてる。探検への好奇心を抑えながら、自分で制限した目に見えないラインを越えて、何が発見できるだろうって思いながら。真夜中に僕が生んだ世界の端に横たえる、手つかずの謎。それが、僕の早朝のイマジネーションになるんだ。多分だからこそ、ここに来たかったのかも。それか、少なくとも、そう導いたきっかけにはなってると思う。でも、単純に招かれた感じがしたんだよね。この街は、僕にとって、とても馴染みのある場所だ。約束や奇跡が待つ大陸に建てられた街。その目は、海の向こう側で駆け巡っている魅力的な輝きを求めている。今日みたいな日は指先で触れられるんじゃないかと思うくらい近い場所。とても近いから、景色を見る飢えた視線だけで、その美しさが壊れてしまうんじゃないかと思うほど、脆くあり、素晴らしくもある。一瞬でもあり、永遠のような。

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一瞬と永遠というテーマは、僕がここへ来た理由の一つでもある。でも確かなのは、書くことが、僕にとって思い出を生かし続ける方法だってこと。過去について思いに耽るというよりも、いつもと違う環境が尊厳について深く考える機会を与えてくれた感じ。たぶん、憂いも僕が人生の物語に思いを馳せるよう仕向けているかも。僕だけが唯一しがみついているだろう物語に。時間は残酷な健忘録だ。特に、難しい健康状態で曲を書こうとするときにはね。時間は避けられないものを連想させる。全てが冷たくて、感情のないファッションに要約されたかのような。それを悲観的な見方だという人たちもいれば、ロマンチックなゴシック詩として高める人たちもいる。個人的には、僕が長いこと不思議に思ってきて、注意深く、忠実に、しつように考え続けてきた現実の、無数にある色合いに命を与えるきっかけのように見てる。

僕は疑問を抱き、物思いにふけり、じっくりと考える。けれど、時間が手なづけられない悲しみや嘆きの野獣となって襲ってこようとも、本当の心と魂の状態を受け入れるとき、感情的乾きは永遠に続く幸せの祝祭になれるんだと学んだんだ。満ち足りた喜びは、愛への信仰、人生への希望を復活させることのできる献身の心だ。ロシアの詩人であり哲学者であるレオ・トルストイが素晴らしく書いたように、”幸せになりたいのなら、なりなさい”…それについて、ずっと考えている。昨年11月、Your Favorite Enemiesと一緒に日本からカナダへ帰ってきた時から。自分が見たいこととは、発見したいこととは、体験したいこととは…。”Tokyo Sessions”は、そういう気持ちの変化から生まれたものなんだ。アルバム『Between Illness and Migration』が、人生そのものに対して必要としていた変化へのメタフォリックな願いだったのなら、”Tokyo Sessions”は、それを受け入れたこと、その自由への祝いなんだ。

実際、”Tokyo Sessions”はプレゼントであり、解放的な贈り物だ。そして、どんな解放も新しい視点を伴う。僕としては、ここ数年、自分がいかに物事や機会を味わって感謝する時間を取ってこなかったか、ということに気づかせてくれた。そういう経験から色々なことを得ることができたはずなのに。だからこそ、”Tokyo Sessions”が完成したあと、愛すべき人たちのうち数名と一緒に時間を過ごすことにしたんだ。ベンとセフを誘いドミニカ共和国で休暇を取り、イギリスはブライトンへジェフと音楽カンフェレンスへ行き、ベン、セフ、ジェフ、YB、ステファニーと一緒に2週間モロッコを旅して、そのあとまた、ジェフと一緒にドミニカ共和国へ行った。そうしてまた、今年5月に過ごしたタンジェへ、調子の悪い僕の鼻腔に潮風を与え、身体を休ませるために戻ってきた。そして、作詞をするためにもね。もしも、その気になったら。

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実は、最後に書いたBEEASTの記事が6月2日って、だいぶ前だったことに気づいてなかったよ…それが本当かどうか、チームのメンバーに確認をとったくらいだ。最後に書いた記事から、これまでのあいだを振り返っても、やっぱり、ずっと前のことのように思える。みんなからの素晴らしいリアクションや受け取った多くの質問を考えてみてもね。前回の記事で、”Tokyo Sessions”がYour Favorite Enemiesの最後のアルバムかもしれないって言ったんだ。僕らの繋がりがみんなにとって、どれだけ深いか、バンドの言葉やサウンドを通して経験したことが、どれだけ大切なものかに気づいて、とても感動したよ。そして、僕のステートメントによって素晴らしい愛の波を見たことで、圧倒されたのと同じくらい、それでもなお、これが最後かもしれないという事実は、悲しいかな、拭えない。そして、もしも最後だったとしても、”Tokyo Sessions”は、僕らのユニークな旅への誠実な完了になるだろうと思うし、新しい言葉やサウンドの創作に必要だった完璧な解放になると思う。   

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どうなるか、誰にも分からない。もしかしたら、新しい曲やアルバム、または別のアーティスティック・プロジェクトへのインスピレーションをタンジェの街角で見つけるかもしれない。それは、暖かい歓迎の笑顔かもしれないし、多色的な感覚や、シンプルな瞬間の盛大さかもしれない。ヘミングウェイが言うように、”今では、正しいものなんて何もないと分かる。それは正しいんだ”。そして、正直さをもって見た世界こそが、ありのままの世界だって信じてる。自分に正直になるのと同じレベルで、世界を見るんだ。

今、タンジェは夜の光が輝く時間だ。こんなに穏やかな気分になったことはないよ…シンプルにハッピーなんだ。君はどうだい?トルストイは何となく正しかった?!  

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