[3 Songs & Out] Alex Henry Foster And The Long Shadows – ‘Standing Under Bright Lights’ アルバムレビュー

掲載:3 Songs & Out

原文はこちらから

トラックリスト:

1. The Son Of Hannah
2. The Pain That Bonds (The Beginning Is The End)
3. Winter Is Coming In
4. Shadows Of Our Evening Tides
5. The Hunter (By The Seaside Window)
6. Snowflakes In July
7. Summertime Departures (Sometimes I Dream)
8. Lavender Sky
9. The Love That Moves (The End Is Beginning)

アーティストにとって決定的な瞬間は、時に最も暗い場所にいるときだったりする。例えば、Pink Floydの『The Wall』やNine Inch Nailsの『The Downward Spiral』。そこにある闇、疎外感、心の痛みは、アーティストのヴィジョンを形づけ、世の中のクラシック(典型)となるアート作品を生む手助けとなっているのだ。

数年前、Alex Henry Fosterは、自分の人生が完璧であると思える場所にいた。カナダのバンドYour Favorite Enemiesのフロントマンとして、世界中で献身的なファンの前でパフォーマンスをしていたのだ。しかし、バンドとしてツアーをするという張り詰めた緊張の連続から、その経験を楽しむことができなくなっていく。そして、2016年にAlexの父親が亡くなり、彼は人生の方向性を見失ってしまった。彼はタンジェへ向かい、大切な人を失った嘆きの感情と向き合い、それを繋げて、やがて1stソロアルバム『Windows In The Sky』を制作した。アルバムは夢の中にいるようなクオリティを持ち、その8曲がゆっくりとリスナーを感情の旅へと導いていく。それは、私たちのほとんどが共感できるものであり、寄り添える感情だろう。大切な人を失う気持ちは、世界共通であり、言語の壁を超えるのだ。

Alexは、彼の楽曲を2019年のモントリオール国際ジャズフェスティバルで披露しないかと招待を受け、ここでのパフォーマンスが今回のライブアルバム『Standing Under Bright Lights』となった。彼の前身バンドYour Favorite Enemiesのメンバーたちが混ざり、他のミュージシャンも加わって、今ではThe Long Shadowsとネーミングされている。ただの音楽仲間の粋を超えたパートナーシップであり、それは『Standing Under Bright Lights』によって素晴らしく証明されている。

パフォーマンスは新曲「The Son Of Hannah」から始まり、この曲がその後に来たるものへのイントロダクションとなった。催眠的なグルーヴが徐々に盛り上がりを見せ、バンドメンバーたちの音のレイヤーが重なり、まるで音で絵画を描いているようだ。Alexは自身の奥深くに秘めていた感情や言葉を紡いでいる。そのあとは、スタジオバージョンと同じ順番で、彼のデビューアルバムからの楽曲へと人々を引き込んでいく。

もしも『Windows In The Sky』を聴いたことがなかったら、ぜひ聴いてみて欲しい。知らなかったとしても、問題はないが、聴いておいた方が役に立つだろう。『Standing Under Bright Lights』で、Alexは剥き出しの魂を演奏に注いでいる。それは、痛々しくもあり、浄化的でもある。他のアーティストたちが、自身の演奏する楽器で曲に混ざっていく中で、それは儀式的な感覚のようでもある。自分の周りで渦を巻き、まるで海の潮水で洗い流されたような気分になるのだ。音楽的な話をすれば、曲はスタジオバージョンより長くなり、アレンジされている。ライブ音源をそのまま使うことは、やる気のない警官のように感じられることがあるが、これはそれを越えている。オリジナルバージョンのほぼ2倍の長さの中で、最も純粋な形で曲のエッセンスへとミュージシャンたちが繋がっているサウンドだ。それは生々しく、本能的であり、残忍さと親切さを兼ね備えながら心を引き裂かれる感じだ。これは聞き流しできるような音楽ではなく、音楽と一体となる必要のある音楽である。ただ聴くだけでなく、脳を音楽に支配させ、身を任せる必要があるのだ。

インタビューでAlexは何度も“communion”(親交・交わり)という言葉を使っていた。それはこのパフォーマンスの中核にあるものだと思う。そう、なんだか宗教的に聞こえるが、その枠を越えているように思えてならない。これは、誰もに共通するものを分かち合うことについて、私たち全員を繋げるものについて。嘆きの糸はあらゆるものを抜け、それを通して自分たちがどう生き、どう成長するかを通り抜ける。Alexの声は、ほとんど話しているように聞こえる時もある。時にJane’s Addictionの偉大なるPerry Farrellのようだ。この催眠的な音楽が、まるで激しい潮衝のようにリスナーを海の深みへと引き込んでいくだろう。

少し音楽について話そう。サイケデリアとプログロック、両方のベストな要素を取って、独自の方法で融合させている。遺伝的にはThe Doorsの系統を受け継いでおり(「The Hunter (By The Seaside Window)」と「Snowflakes In July」は特に「The End」と「Riders On The Storm」の系統だ)、Mogwai、Godspeed You! Black Emperor、… And You Will Know Us By The Trail Of Deadのようなバンドによって普及されたレイヤーやテクスチャーが加わっている。また、そのファジーな音は、Spiritualizedの1997年にヒットした『Ladies And Gentlemen We’re Floating In Space』も連想させると言えるだろう。それは、柔らかい音であったり、圧倒されるようなカオスだったりする。

『Standing Under Bright Lights』はトリプルLPとCDとして入手できる。CDにはDVDが付いており、手に入れる価値のあるフルコンサートが収録されている。フォスターはMoogのキーボードの後ろに立って、ステージのフロントにおり、他のメンバーたちは黒い服装で彼を囲むようにステージ上に散らばっている。天井からは無数のリボンが吊るされ(プロジェクション・スクリーンとして後に数が2倍になる)、白い光がスモークを抜けて光線のように輝き、独特の雰囲気を作り出している。のちに暖かい色がミックスされるが、完璧なアンビアンスを作るために綿密にデザインされているのは明らかだ。これは、瞬間に浸ることについて。誰にも邪魔されることなく、その純粋な音楽へと耳を傾けることができるチャンスだ。

Alex Henry Foster & The Long Shadowsは、このパフォーマンス、そして、そのリリースにおいて、素晴らしい美しさと脆さを生み出した。Nick Caveの『Ghosteen』のように、大切な人を失うことや嘆きに重きが置かれているが、そこから得るものは立ち直る力である。その暗闇に簡単に引きずられてしまうかもしれないとき、そうではなく、自分が世界にもたらせる価値を思い出させてくれるものだ。『Standing Under Bright Lights』は、人の心の中で燃えている温かさと光に対する、深いスピリチュアルな賛美歌である。


Website – 
http://alexhenryfoster.com/

Facebook – https://www.facebook.com/alexhenryfosterofficial/

SCOTT HAMILTON
2021年4月15日

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