[American Songwriter] Alex Henry Foster モントリオールで即興演奏によって嘆きと向き合う

掲載:American Songwriter

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世界の新しい形を考えると、もう随分昔のように感じますが、Alex Henry Fosterはモントリオール国際ジャズフェスティバルに参加し、自身のアルバム『Windows in the Sky』の壮大なセットを演奏するため、Club Sodaのステージに足を踏み入れました。そして、フォスターのパフォーマンスは、40年というフェスティバルの歴史の中でも、最も成功したコンサートの一つと称されました。

フォスターが自身の凄まじく親密なトラックリストを演奏する予定だったのは、当時はこのフェスティバルだけでした。父親を亡くした苦しみから生まれた即興的なアプローチを見込んでの選択です。モントリオール国際ジャズフェスティバルはフォスターが幼い頃に父親と足を運んだ数少ない場所の一つでもあります。何千人もの人たちが実際に、その場に足を運ぶことができ、この時には未発表曲だった「The Son of Hannah」と、アルバムからのヒット曲となった「Lavender Sky」を生で聴くことができました。この純粋なエネルギーと親密な告白は、『Standing Under Bright Lights』のフィルムと共に4月16日に世界リリースとなります。

“このフェスティバルで演奏するのは、とても特別だったよ”とフォスターはAmerican Songwriterに語りました。”父との思い出がそうさせたんだ。だって、『Windows in the Sky』をリリースしたあと、ツアーをしようとは考えていなかったからね。この曲を何度も何度も演奏することによって、毎晩、ただの繰り返しになっていって曲の意味を失うのが不安だったんだ。だから、僕の中では1回きりのコンサートだった。そのあと、どうしたいとかは特に考えてなかった”。

父親を失った気持ちがまだ生々しく残る中、そのあとに作詞した楽曲たちを演奏するのはフォスターにとって簡単なことではありませんでした。なので、このフェスティバルで演奏する条件として唯一彼が提案したことは、プロダクションにおけるクリエイティブ・コントロールを自らが全て管理することでした。そうして、彼は11人バンドとして演奏したのです。楽曲は本物で、その瞬間は本物でした。痛みはよりリアルに伝わり、フォスターはパフォーマンスをそのようにしたかったのです。

“僕がしたいことを、したいようにできるよう、みんなとても良くしてくれたよ”とフェスティバルについて語りました。”初めてのホームタウンギグとして、すごくエモーショナルだったから、とても良くしてくれて本当に恵まれていたよ。ホームタウンギグは色々な理由で難しいんだ。父の家族の前で演奏するということだし、長年の友人たちも世界中から駆けつけてくれたから。だから、本当にそれは親密で、商売とか宣伝の機会みたいにはしたくなかったんだ”。

フォスターの通常6人のバンドから11人バンドへの拡大は、実際、気がすくむようなタスクでした。特に楽譜などは用意されていなかったのです。しかし、それは音楽に導かれた本当のコラボレーションを生みました。楽曲を軸に即興をするという考えはフォスターの中では自然に感じたものの、他のバンドメンバーにとっては、とても難しいことだったようです。

“僕のアプローチはこれまでと全く違うマインドセットだったんだ。僕はバンドを指揮していた”と、フォスターは言います。”ここをこういう風に練習して、本番でも同じようにやろうっていうんじゃないんだ。曲を新鮮なまま保つために、みんなに緊張感を持たせ、その瞬間に集中することは、身動きの取れない構成とかそういうものを変えて、インプロ(即興演奏)することだった。僕らはその場の雰囲気や感情に任せたんだ。楽曲のコンテキストに合うよう感情を持っていこうとするんじゃなくて。それはもう既にオーガナイズされ、よくリハーサルされていたからね”。

“そうしたら、他のミュージシャンたちからは楽譜があるか聞かれたよ。それで僕は「これはもっと哲学的なアプローチなんだけど、楽譜はないんだ。それこそ、まさに避けたいことだよ」って答えた。それを聞いたミュージシャンたちは僕をまっすぐ見つめ、お互いを見合って、「なるほど、これは面白くなりそうだ」って思ったのさ”。

そして、それはまさに興味深い瞬間となりました。アルバム『Windows in the Sky』からの楽曲(全9曲)を演奏したパフォーマンスは、2時間半となり、コンサート参加者は彼らの即興演奏に魅了され、そこにある感情、暗闇、詩のような歌詞、スポークンワードで語られる実験音楽によって、別世界へと連れて行かれるような体験をしました。

“音楽が僕らをどんな瞬間へと導くのか分からない”と、フォスターは言います。”このコンサートの面白いところは、予想していなかった瞬間を体験できたこと。全く思い描いていなかった曲のパートが生まれたし、だからこそ、みんながその瞬間に浸れたことで、とてもユニークでエモーショナルなコンサートになったんだと思う。そして、何かがゆっくりと起きていると分かるとき、その流れに逆らう必要はないってみんな感じられたんだ”。

おそらく、即興の一部は、フォスターがヴァージニアの自宅で書いたスポークンワード・スタイルの歌詞に導かれたことでしょう。追悼の時期に、唯一できたことといえば、彼にとっては自分の気持ちについて話し、言葉を綴ることだけでした。

“ヴァージニアの自宅でこの曲たちを書き始めて、レコーディングし始めた時に、割と直感的に、自然に出来上がったんだ。自分が書いた言葉をはじめは曲にしようとは思ってなくて”と彼は言います。”それはレコーディングという意識よりも、当時、自分が経験していたことについて、それは自分にとってどんな意味があるんだろうか、自分は実際どう感じているんだろうかって問いかけた瞬間だったんだ。特にスタイルについては、考えていなかったよ”。

音楽はフォスターにとって常に身を守ってくれるブランケットのような存在であり、大切な人を失う経験をアーティストとして対処したことは、彼にとって良いことでした。音楽の海や他のバンドメンバーたちの中に隠れ、ステージで脆弱になれるだけのプロテクションを与えてくれたからこそ、自分の痛みを手放すことができ、曲の繊細さを保つことができました。

“僕にとって、バンドというコンテキストの中に隠れる方が簡単なんだ”と彼は言います。”だって発する言葉の全てを自分一人で背負わなくて良いからね。ある意味、自分の言うことや、シェアすることの責任を追わなくて良いんだ”。

トラックリストの多くは悲しみと喪失を扱っていましたが、子供が青年期から成人期に移行し、自分の人生の責任を引き受けるような変化が起こる中で、子供が親を失うことについても比喩的に触れています。

“それは、少年が父親を失うという通過儀礼についてでもあるんだ”とフォスターは『Windows in the Sky』についてまとめました。”突如として、大人になることや、子供として経験してきたことへの新しい視点が見えてくる。あと、父親と過ごした意味深い瞬間とかも。でも、同時に自分自身の旅が、これまでどんなものであるか、そして自分の人生の舵を取らなければ、どこへ向かっていくのか、についてでもあるんだ”。

そして『Windows in the Sky』は、特定のゴールなどを持って意図されたものではなく、それはフォスターが人生のこの時期を通り抜けるための対処法であり、自身の感情を理解するために力を与えました。

“これは野心のない、正直な心の証なんだ”とフォスターは言います。”『Windows in the Sky』は商品としてリリースするつもりすらなかった音楽だ。自分のためのセラピーみたいなものだった。とてもナチュラルな方法でプロデュースされ、今しかないというような緊急性を持って作られた。というのも、この感情をいじくりたくなかったから。この感情をそのままに、父との思い出を映し出したかったんだ”。

フェスティバルでこの曲たちを演奏することについて、フォスターはこの機会をただの利益や商売にするのではなく、よりセラピーや人と繋がる方法にしたいと思いました。そして、その後に開催したツアーにおいて毎回のショーのあと、アルバムがより多くの人に伝わり成功していく中、それはフォスター自身の感情や脆さに対し、自身の嘆きのフェーズを一歩ずつ抜けて、新しい光の中へと向かっていくための試練となっていきました。

“曲を本物に保つために、毎晩自分を傷つける必要があると感じたくなかったんだ”とフォスターは説明しました。”曲は本物だよ。僕はそれが発展していくのを許し、それを通して、自分自身も成長できたんだ。他の人たちとの分かち合いを通じて、曲が変化していくのを許した。その交流、交わりが、曲を新しいフォームへと形づけていったんだ。だからこそ、ジャズフェスティバルでのコンサートが終わった後も、もう少しこういう形でシェアしたいと思った”。

パンデミックによって多くの時間を一人で過ごしたあと、フォスターは彼の音楽をモントリオールで開催したのと同じようなセッティングでツアーという形でシェアする準備ができています。フォスターと彼のバンドThe Long Shadowsは、『Standing Under Bright Lights』のリリース後、状況が許す限り、すぐにヨーロッパをツアーする予定です。

“境界線がないものをできる僕は恵まれていると思うし、これからも、そうやっていきたいと思ってる”とフォスターは言います。”創作において、色々と考えるのは止めたんだ。僕はただ息を吸って、息を吐いたあとに、どんなものを発見できるのか、シンプルに身を任せたい。なんだか謎めいて、変に聞こえるかもしれないけど、今は本当に、一人の人間として、そういう感じなんだ。それは僕の作る音楽や、その他の活動を映し出してると思う”。

“今は曲を再発見しながら、自分自身を再発見してるよ。もう次のアルバムに取りかかり始めてるんだ。何年も暗い場所にいたあと、今はとても気分が良いよ。だから、そうさ、言葉にするのが難しいけど、でも同時に、何かまた別のものに対する素晴らしいメッセージのようなものになるよ”

『Standing Under Bright Lights』は、現在ここからプレオーダー中。リリースには、モントリオール国際ジャズフェスティバルからのライブアルバムと演奏を収録したフィルムが含まれます。

MACIE BENNETT
2021年4月6日

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