スタジオツアー

Benがその後、19時の夕食の少し前にスタジオを見に来ないかと招待してくれた。すぐには返事をしなかった。その瞬間を捉える必要があったんだ。変に聞こえるかもしれないけど、”今だ”って言う時になって初めて、全てのシステムがスタートする。偽ることはできないし、Your Favorite Enemiesのフロントマンをしていた時のように偽物の笑顔を作ることもできない。本物で正直でなきゃ、完全なる惨事になるだけだ。それを試したらどうなるか、その結果が分かり切っているくらいに慣れ親しんだもの。今なら違う結果になるかもなんて…それはない。22時になる少し前、僕は心の準備ができて、楽しみでさえあった。それは後に、数週間かけた献身的な作業だったと知るんだ。

僕は目隠しをされてコントロールルームに入り、目を開けた瞬間、信じられないほど驚いた。涙が溢れそうになったくらいに。それは不必要な変身なんかじゃなかった。壁は別の色に塗り替えられ、デザインが変えられ、何よりも、僕らの共通する過去のスティグマなしに、創作活動するよう僕らを招待してくれる場所となっていたんだ。とても見事だったよ。細かいところにまで気を遣っていて、そこには愛があった…僕は簡単に驚かないんだ。でも、本当に心から感動した。レナードのための場所まであったんだよ。それも、どんなに短い時間だろうとマッカイと一緒にシェアした数えきれないほどのおもちゃ等を退けることなく。ただの新しい洋服とリボンに包まれた思い出ではなかったんだ…それが分かるほど、偽物や仮装を経験してきてる。僕が招待されていたのは、人生だった…全く新しい。

そして、彼らは再び僕に目隠しをして別の部屋へ連れて行った。2つ目の場所は教会の大広間にあるライブリハーサル/レコーディングスペース。僕の音楽ギアが全て集められ、作詞用の場所も注意深くセットアップされていた。みんなで一体となって創作したいと思うなら、実際に近くにいることが必要不可欠であり、けれどスタジオの技術面において、それがみんなの解放や自発性を妨げる障害になってはいけないと言い続けていたから、細部にまで考え抜かれたセッティングを見て、とても感動したんだ。ただ物が綺麗に並べられているだけじゃなくて、これから体験するアーティスティックな親密性への唱歌だった。1200席ほど入るライブ会場のような広さを持つ教会スタジオの真ん中で、その一体感を感じられるようにするのは、簡単じゃない。そういうアイディアが実際に形になれるだけのコミットメントが必要であり、それを真に望む気持ちが必要だ。一つになること…それを、ライブコンサート以外で経験するのは難しい。僕の目の前に広がっていたのは、僕が妥協できなかったバンドの一体感を生むために、他のバンドメンバーたちと同じ場所にいるという肉体的なコンセプトを越えて、一つになるという決意を力強く告白したものだった。僕にとっては、いつだって向上することについて…音を出さずとも、それを感じられたんだ。

最後の目隠しの場所は、僕らがグリーンルーム(楽屋)と呼んでいる場所だった。ツアーの準備の時に使う大きなステージの後ろにある部屋。グリーンルームはかつてマルチメディアのための部屋だったけど、教会を音楽のためだけに使うことにしたあと、隣接した牧師館に全て移したんだ。この部屋を綺麗にするために、これまで財源も時間も取ってこなかったから、目を開けたとき、とても衝撃的だった。長いダイニングテーブルに、ソファ、コーヒーの場所。室内は完全に再設計されて、ずっと長いこと自分たちのものにしようとしてきた交流の精神を育てられるようにデザインされていた。壁の塗り替えも素晴らしいけど、お互いを身近に感じられるのが最高のことだ。それは、どんな仮面をも通り抜ける望み…そして、もし誰もが一定のレベルでその仮面を持っているのだとしたら、僕が探し求めているようなコラボレーションでは、ただ役割をこなしたり、全てを内に閉じ込めて安全を感じようとする意識とは共存できない。

メンバーたちはシャンパンを注ぎ、彼らの間で交わした会話について話してくれた。お互いに気づいたこと、過去の出来事やこれまでの自分、恐れにまみれた心が生んだ変化への抵抗を完全に断ち切って、新たに築いていきたいという意思など…そういう会話から、この環境を傑出したものに変えようと決断したことや、それ以上に、新たな抱負を日々、リマインドするためにガラリと変えたんだと説明してくれた。僕にとって最も心打たれたのは、バンドを結成して以来、おそらく初めて、僕らみんなが正しい理由と共にこの瞬間この場にいて、いつの間にか、僕らが成り下がっていたありきたりな決まり文句から自由になれたことだった。それは、とても新鮮だったよ。このあとスタジオに戻り、お喋りをして、もっと時間があればいいのにと願うくらい楽しい夜を過ごした。こんなこと、今まであったかなって思うくらい。僕は、物静かでストレスを感じていたけれど、それでもなお、幸せを感じていた…この感覚も、ものすごく久しぶりだったよ。