旅行者か旅人か

午後に聴いた曲の多くが、Benと僕が数年前に始めたプロジェクトに関係するものだった。タンジェに滞在していたときに作ったもので、アメリカ人作家でありタンジェに魅了されたポール・ボウルズの言葉にインスパイアされたもの:

“数週間や数ヶ月経つと、旅行客は急いで家へ帰るのに対し、一つの場所に属さない旅人は、数年かけて地球の一部から別の場所へと、ゆっくり移動する。彼がこれまでに定住した様々な場所の中から、最も故郷のように感じる場所がどこかを伝えるのは、実際、難しいだろう”
ーポール・ボウルズ『The Sheltering Sky』より

これらの曲を再び聴くのは興味深かったよ。今、僕らが作っているアルバムの本質とは無関係だけれど、一方で、その精神は、数年前に僕が模範し始めた人生の流れ、そして毎日その流れを耕したことで実った今の人生へと否定できないほどに繋がっていた。また、Benのユニークな感情的音楽を通して、僕の言葉を伝える素晴らしい能力も映し出していた。自分の感情の奴隷のようになっていたBenが、こうして開花するのを見るのはすごく深い意味がある。音楽はその本質によって多くを語るけど、誰にも聞こえていないと信じてる心の沈黙は、内側で苦しんでいるときに、他の人に集中して欲しいと思うディストーションよりも、ずっと大きく鳴り響く。僕らは深くダメージを受けてるけど、治せないほど壊れてはいない。毎日、Benの隣に座るのは素晴らしい恵みだし、特に本来の自分ではないのに、そうだと自分を納得させようと長年フリをしてきたのを見てきたから、ありのままの自分でいる彼の決意を誇りに思う。自分に正直になるとき、本当の自分を周りの人たちに見せるチャンスを掴むとき、僕らは旅行者だろうか、旅人だろうか…そんなに簡単じゃないんだ。ほとんど全てのことや、全ての人が、偽物に見えるとき、それに真実味を持たせることに気を配る必要すらない…